
交通事故が発生した場合、被害者は精神的苦痛を負ったことに対して加害者に慰謝料を請求できるケースがあります。
交通事故で慰謝料を請求する場合は相場を把握しておく必要がありますが、さまざまな計算基準があるという点に注意しなければなりません。
また、実際に慰謝料の請求を行う際には、どのような流れで進んでいくかも把握しておきましょう。
この記事では、交通事故の慰謝料の相場や算出方法、請求の流れなどを紹介します。
交通事故の慰謝料とは
交通事故の慰謝料とは、被害者が交通事故でケガをしたことによって受けた精神的苦痛を補償するものです。
交通事故に遭うと、大切な家族を亡くして悲しい思いをしたり、ケガの治療や手術でつらい思いをしたりなど、さまざまな精神的苦痛が生じます。
交通事故の慰謝料は、このような精神的ショックを少しでも軽減するために、賠償金を交通事故の加害者から受け取るというものです。
慰謝料は精神的損害の大きさによって決まるものであり、被害者の損害内容や程度、年齢、家族関係などの要素も考慮されたうえで決定します。
また、交通事故では治療費や物損の補償費用なども発生しますが、これらは慰謝料に該当しません。
慰謝料はあくまでも精神的苦痛を慰謝するお金であり、物理的な損害への補償は別物です。
交通事故の慰謝料の計算基準
交通事故の慰謝料の計算基準は、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3種類があります。ここでは、それぞれの計算基準を解説します。
自賠責基準
自賠責基準とは、交通事故で負傷した被害者に対して、法令で定められた最低限の補償を行うことを目的とした基準です。
他の基準に比べて最も低額となりますが、これは自賠責保険が被害者の最低限の補償を目的とした保険であるためです。
自賠責基準では、交通事故の慰謝料が以下のように定められています。
- 入通院慰謝料:通院1日あたり4,300円
- 後遺障害慰謝料:最大1,650万円
- 死亡慰謝料:被害者本人400万円、遺族1名550万円
通常、慰謝料は過失割合に応じて過失相殺され、賠償額は減額となるのが一般的です。
しかし、自賠責保険は被害者の最低限の補償を守るための保険であり、過失割合が7割未満であれば過失割合相殺されないという決まりがあります。
そのため、被害者の過失割合によっては他の基準に比べて高額になるケースもあります。
任意保険基準
任意保険基準とは、交通事故の加害者が加入している対人賠償責任保険の基準のことです。
あくまでも保険会社が定めている基準であるため、被害者はこの基準に従う義務はなく、納得できなければ増額を求めることもできます。
任意保険基準は保険会社によって異なり、入通院慰謝料だと1日あたり約6,000円程度、後遺障害慰謝料や死亡慰謝料だと約1,000〜2,000万円のケースが多いです。
しかし、保険会社は相場よりも低い金額で慰謝料を提案してくる場合が多いため、注意する必要があります。
提示される金額が相場より低い場合は、弁護士を介入させることで慰謝料の増額が可能になるケースもあります。
弁護士基準
弁護士基準とは、交通事故の慰謝料を計算するときに裁判所でも用いられる算定基準です。交通事故の慰謝料は以下のように定められています。
- 入通院慰謝料:通院1日あたり約7,000~9,000円
- 後遺障害慰謝料:最大2,800万円
- 死亡慰謝料:1名につき最大2,800万円
過去の判例をもとに設定されているため、弁護士基準で慰謝料を計算すると、法的正当性の高い相場を把握できます。
最も被害者救済の実態に沿った基準であり、補償される金額の基準も高いのが特徴です。
しかし、他の基準と異なり被害者側から金額の提示や交渉など、法律の専門的な知識が必要となるため、弁護士に依頼しなければ弁護士基準での慰謝料の請求はできません。
交通事故の慰謝料の種類と相場
交通事故の慰謝料には、入院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。ここでは、それぞれの慰謝料の特徴や相場を解説します。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故によって医療機関への入院や通院を強いられたことにより生じた精神的損害への慰謝料です。
入通院慰謝料の相場は、通院1日あたり6,000〜12,000円程度となります。
入通院慰謝料は、交通事故でケガをした人が入院や通院をして、それにより精神的苦痛を伴う場合に請求できます。
例えば、ケガそのものの痛みや治療、手術の際に感じる恐怖、入院や通院による時間的・身体的な拘束なども精神的苦痛です。
原則として入通院期間に従って作成された算定基準に基づいて算出され、個々の事案に増額事由がある場合の他、受傷の部位や程度によって調整される場合があります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故によるケガで残った後遺障害に対し、被害者の身体的・精神的な苦痛を補償する慰謝料です。
後遺障害とは、交通事故によってケガを負った場合に、治療を続けても症状が改善しないまま残ってしまう状態を指します。
後遺障害が後遺障害等級の1〜14級のいずれかに認められると、後遺障害慰謝料の請求ができるようになります。後遺障害慰謝料の相場は、100〜2,800万円程度です。
金額は後遺障害等級ごとに異なり、数字が小さくなるにつれて症状が重くなります。正しく後遺障害慰謝料を請求するためには、適切な後遺障害等級に認定される必要があります。
なお、後遺障害慰謝料が最も高額なのは弁護士基準となります。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、交通事故で被害者が亡くなった場合に発生する精神的損害への慰謝料です。交通事故の慰謝料の中で最も高額となります。
遺族が受け取れる死亡慰謝料は、400〜2,800万円が相場です。死亡慰謝料は自賠責基準が最も低く、次に任意保険基準、高額なのは弁護士基準となります。
また、死亡慰謝料は場合によって増額が求められる場合もあります。例えば、事故が悪質だったり、加害者の態度が不誠実だったりする場合などです。
事故の原因が飲酒運転やあおり運転であれば、加害者の過失も大きく悪質性が高いといえます。
交通事故の慰謝料請求のポイントや流れ
交通事故の発生後に慰謝料を請求するためにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、交通事故の慰謝料請求のポイントや流れを解説します。
事故発生
交通事故が発生したら、必ず警察に連絡をして現場検証を行ってもらいましょう。慰謝料を請求するためには、警察に事故を届けることで発行される交通事故証明書が必要です。
事故の当事者同士で話し合うとトラブルになるだけでなく、慰謝料の請求ができなくなる可能性もあります。
なお、交通事故発生時には体に異変がなくても、しばらく時間が経ってから痛みが出てくる場合もあります。
このような場合、警察に届け出をしていないと物損事故から人身事故に切り替えられません。
また、警察への報告は道路交通法で定められており、速やかに連絡をする義務があります。この義務は交通事故を起こした加害者だけでなく、被害者にも課されているものです。
治療
交通事故を警察に報告したら、後から痛みが出てくる場合もあるため病院に行きましょう。
交通事故の発生直後は興奮状態から痛みに気づかず、しばらくしてから痛みやしびれが出てくるケースは少なくありません。
しかし、交通事故が発生して時間が経過してから病院を受診すると、事故との因果関係が疑われてしまい、慰謝料を受け取れない可能性もあります。
なお、物損事故であっても念のため病院に行った場合の診察費や検査費などは、ケガの有無に関係なく支払ってもらうことができます。
ケガを負っていれば慰謝料も請求できるため、交通事故でケガをしたと診断を受けたら、診断書を発行してもらいましょう。
ケガが完治しない場合
ケガの治療を受けても後遺障害が残ってしまった場合は、後遺障害等級認定の申請を行いましょう。
申請手続きを行って後遺障害に認定されることで、後遺障害慰謝料の請求ができます。
後遺障害等級認定には2種類の申請方法があり、一つは加害者の任意保険会社に手続きを一任する方法(事前認定)、もう一つは被害者が自ら手続きを行う方法(被害者請求)です。
慰謝料の請求を見据えて後遺障害等級認定の申請を行う場合は、被害者が自ら手続きを行うのが望ましいです。
その理由としては、書類を万全にして請求できることや、手続きの透明性が高いことが挙げられます。
事前認定の場合は、任意保険会社担当者が被害者に適正な等級が認定されるようにアドバイスをくれたり、書類の不備などを指摘してくれたりなどはありません。
示談交渉
交通事故の示談交渉は、被害者と加害者が交通事故の過失割合を決め、当事者間の話し合いで解決することをいいます。
示談交渉の相手は、加害者が任意保険に入っているのであれば任意保険会社の担当者、任意保険に入っていないなら加害者本人です。
基本的には、示談できるタイミングになると加害者側の任意保険会社から示談金額や過失割合を提示する示談案が届きます。内容に納得すれば、署名と捺印で示談成立です。
しかし、加害者側の提示内容は適正ではないことも多いため、納得できる内容でなければすぐに合意する必要はありません。
示談に合意できない場合
加害者側が提示する示談案に合意できない場合は、その旨を加害者側に伝えましょう。示談前のタイミングであれば慰謝料の増額ができる場合もあります。
ただし、示談が成立してしまっている場合は、基本的に慰謝料を上げることはできないため注意が必要です。
任意保険会社は営利企業であり、支払う賠償金が少なければ会社の利益は大きくなるため、提示する示談案は低額の場合もあります。
また、交通事故の被害者の多くは適正な示談金がいくらであるか知らず、加害者側の任意保険会社に説得されてしまう可能性も少なくありません。
そのため、示談に合意できない場合は専門家の力を借りて交渉するのも一つの方法です。
交通事故の慰謝料請求は弁護士に依頼しよう
交通事故で慰謝料を請求したい場合は、法律の専門家である弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士に依頼することで、慰謝料の増額が見込めたり、交渉をすべて任せられたりなどのメリットがあります。
交通事故の慰謝料は自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準がありますが、最も金額が高いのは弁護士基準です。
また、弁護士に示談交渉を任せることができるため、相場よりも低い慰謝料で示談が成立してしまうリスクを減らせます。
他にも、医師の診断や治療期間、後遺障害等級認定など、慰謝料請求に向けてさまざまなアドバイスを受けられます。
弁護士に交通事故に関する相談を行う場合は、交通事故問題を得意とする弁護士に依頼するのがポイントです。
弁護士事務所の公式WebサイトやSNSなどをチェックして、交通事故問題の実績があるか事前に確認しておきましょう。
まとめ
この記事では、交通事故の慰謝料や相場、算出方法、請求の流れなどを解説しました。
交通事故が発生した場合、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料などの慰謝料を請求できる場合があります。
慰謝料の基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準があり、中でも弁護士基準は請求できる慰謝料が高額です。
交通事故の慰謝料請求をスムーズに進めていくためにも、そして加害者側に不利な金額を提示されないためにも、交通事故のトラブルは弁護士に依頼するのがよいでしょう。
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交通事故でご不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。